「SEOは担当者一人による技量の問題ではなくなってきている。SEO対策は組織作りから始まっている」。
DemandMarketsの黒瀬淳一氏(Platform Specialist)は、直近のSEOの潮流についてこう発言した。
SEOプラットフォーム「DemandMetrics」を提供する同社が主催したイベント「FOUND Conference Tokyo 2019」(1月28日開催)の冒頭における言葉だ。
ユーザーの意図を汲んだコンテンツやUX指標の高いサイトが、より検索上位に表示される傾向がますます顕著になっているという。
リンクビルディングなど小手先のテクニックが最重要だった時代は、担当者のスキルに左右されがちだったSEO対策だが、「ユーザーのニーズに真正面から向かい合う」という、よりマーケティング色が強い対策が不可欠になってきた最近では、組織的な取り組みが欠かせないというのだ。
確かにユーザーニーズを的確に吸い上げた上で、質の高いコンテンツ発信を続けることは、個々の担当者が属人的に努力するだけでは難しいだろう。
上位表示への打ち手が比較的はっきりしていたテクニック重視の時代とは打って変わり、より複雑かつ個々の企業ごとに異なる対策が求められるようになりそうだ。
SEO的テクニックの重要性が相対的に下がっているという傾向については、この日最初に登壇したリクルートの朝倉将行氏が、「衝撃的だった」と語る興味深い例を挙げていた。
ある「自動車ローン」関連のビッグワードで1位に表示されているページの話だ。
ローンの返済額を自動で計算してくれるシミュレーションツールのページだが、シンプルな使い勝手で非常に便利そうだ。
とはいえページ内にテキストはほとんどなく、descriptionも入力されていない。さらにサイト内からはJavaScriptのポップアップ経由でないとたどり着けない。
それにもかかわらず、競争激しいビッグワードで1位に表示されている。
一定の文字数・キーワードやmetaタグといった、これまで重要視されてきたテクニカルな要素がなくとも、Googleがユーザーの検索意図を精緻に理解できるようになっていることが分かる好例だ。
だからこそテキストとしては単純な検索キーワードの裏にひそむ、込み入った意図をどれだけ把握できるかが、SEOにおいてますます重要になっている。
この日の朝倉氏によるセッションは、まさにこのトピックだ。
特にリクルートによる各種サイトの場合、単に検索流入を増やすのではなく、消費者によるサービス成約という、より深いコンバージョンまで目指すため、検索意図の理解は切実な課題になるようだ。
「たとえば中古車情報サイト『カーセンサーnet』の場合、コンバージョンは資料請求や総額見積、在庫問い合わせになる。しかし最終的に中古車販売店での購入につながらないコンバージョンを増やしてしまうと、クライアントの業務に負荷をかけてしまう」(朝倉氏)。
そこでGoogle上やサイト内での検索意図をより精緻に理解するために、独自の手法開発に取り組んだ。
まずタウンワークやフロムエーなどを含む、リクルートジョブズ運営の求人5サイトを対象とした。
これらのサイトは、改善に向けて検索意図の理解が必要と思われる課題を抱えていたという。
「月間検索回数が100回以下のテールワードでのコンバージョン率(CVR)が、ミドル・ビッグワードに比べて低かった。そこで検索意図に即した形でサイト内を改良することで、CVR改善に加えて、検索順位の上昇も期待できると考えた」と朝倉氏は振り返る。
実際にユーザーのサイト内行動を追ってみると、検索意図が一筋縄ではないと思わせる動きが見られたという。
検索流入してきた時のキーワードの内容とは、最終的に異なる求人に応募するユーザーの割合が、全体の8割以上にも上っていたというのだ。
「バイトを探している人は、最初どう検索していいか分からないため、複数のメディアを渡り歩くこともするし、サイト内外での検索条件も色々変えるのだろう」(朝倉氏)。
そういう意味では、最初に入力された検索キーワード自体は、ユーザーの真の意図の一端を表す「切れ端」に過ぎないという。
「たとえば『下北沢 漫喫 バイト』で検索した人が、その言葉通りの求人を求めているとは限らない。『大学の近くが良い』『接客は苦手だが漫喫であれば』というのが真の意図かもしれない」(朝倉氏)。
そうなってくると、検索意図を理解するには、検索ワードそのものではなく、他のワードとの関係性まで含めた文脈を理解する必要がある。
そこで前職までエンジニアだった朝倉氏は、「オントロジー」と呼ばれる手法に着目したという。
「あまり耳なじみがない言葉だが、言葉同士や概念同士の関係性を表現できる手法」(朝倉氏)。
たとえばオントロジーの手法を用いて、アルバイト領域のあらゆる言葉や概念の関係性を数値化できれば、サイト内検索の表示精度も大きく改善できるという。
「『渋谷 ロクシタン バイト』という検索ワードにドンピシャの求人がなくても、“渋谷のロクシタンが入居しているヒカリエ”“女性に人気”という共通点を持つ『ジェラートピケ』の求人を表示するといったことも可能になる」(朝倉氏)。
まだテスト段階の技術というが、本番環境で試したところコンバージョン率や直帰率、セッション当たりのサイト内検索回数などが軒並み改善。直帰率に至っては、10ポイント近くも改善できたという。
ただし当然ながら、あいまいな言葉同士の関係性を数値に置き換えることは簡単ではない。
「『未経験OK』や『託児所付き』など、検索者によって意味合いが異なる抽象的なワードの関係性算出は難しかった」と朝倉氏は話す。
その点については、2017年に話題になった「ポアンカレエンベディング」と呼ばれるデータサイエンス領域の手法が突破口になったという。
ユーザーの気持ちや深い心理と向き合う姿勢は、今後のSEOにおいても必須だろう。最新のテクノロジーを駆使してこれに挑むリクルートの取り組みは、非常に刺激的だった。
次に登壇した花王 キュレル事業部の廣澤祐氏は、乾燥性敏感肌の方のためのスキンケアブランド「キュレル」のSEOにも携わる。
「水仕事で手が荒れがち」「服の材質に気を遣うので、おしゃれにも気をつかう」など切実な悩みを抱える人も多い。
そういった人々による検索だからこそ、上位表示によるブランディング効果もあると考えているという。
「『これを知りたい』と検索した時にキュレルのページが上位表示されれば、今の疑問とキュレルは関係がありそうだ、と意識的・無意識的にもなりやすいのでは」と廣澤氏は考える。
「乾燥性敏感肌」と検索すると、上位5ページのうち花王によるコンテンツが3つも占めている(2月1日時点)。確かにこのことによる、信頼性への影響は決して小さくはなさそうだ。
効果測定として、「乾燥性敏感肌」で検索流入した人と、そうでない人とでブランドリフトの違いを比べる、といった取り組みも検討しているという。
ブランディングとしての検索結果画面対策として、自社系ブランドワードでのリスティングにも注力している。
「自社系ブランドワードを買うことで、Googleの自動最適によって他社のリスティング広告や検索結果などが表示され「キュレル」を探している人に適切でない情報が出てしまう可能性を減らせる。」
また「キュレルが1999年に誕生したときは、『敏感肌』や『乾燥性敏感肌』という概念はまだ社会的に認識が薄かった。協力会社様を含む我々の取り組みによって、20年かけて広まってきた」というが、これを今後もさらに広げていく余地があると感じているという。
SEO文脈でいえば、そもそもの検索クエリの量を広げる取り組みだ。
「クエリを増加させるのに効くのは、会社の上場か大規模テレビCMという話もある。それでは元も子もないので、自発的にできる取り組みとしてPRを重視している」(廣澤氏)。
そのために新商品発表のタイミングで、報道陣向けに技術・フィロソフィー紹介の場を設けるなど、「社会ゴト化」に向けた周知活動に継続して取り組んでいる。
効果計測としては、狙ったクエリの検索が伸びているかをGoogleトレンドなどで検証しているという。
「『キュレルモイスチャーバーム』を2018年9月にローンチした後は、検索クエリが上がってきている。メディアとのリレーションを実施した効果があったのではないか」(廣澤氏)。
「検索意図というのは、言い換えれば人間の欲望。それがキーワードとなって表れている」と話す廣澤氏。
その裏にひそむ欲望をいかに的確に刺激できるかが、検索クエリを広げるにあたって重要という考えだ。
「乾燥性敏感肌の人がどんな思いで検索しているかを常に意識している」(廣澤氏)という姿勢は、キーワードの醸成やブランディングといった、より高い視点から取り組むSEOだからこそ、なおさら欠かせないのだろう。
検索している人の思いや悩みを把握した末に出てくるアウトプットは、当然ながらSEO的に重要だと言われる要素を盛り込んだだけのコンテンツにはならないはずだ。
しかしそのような血の通ったコンテンツを企業が継続的に作り続けるには、何らかの仕組み作りが必要になるだろう。
最後に登壇したGameWithの阿部拓貴氏が紹介した取り組みは、組織力によって「深いコンテンツなのに量産できる」といった内容で、非常に興味深かった。
まさに「SEO対策は組織作りから」という冒頭の黒瀬氏の話に通じる取り組みだ
国内最大級のゲーム情報・攻略サイト「GameWith」を統括する阿部氏は、一般的なメディア事業の特徴についてこう語る。
「他の事業と比べ再現性が高い。そのため一度成功する人は次も成功しやすく、開発コストもほぼないので競合も発生しやすい」。
こういった環境では、自社の優位性を保つために次の4つの要素が重要になるとした。
GameWithの場合は、特に「4.組織力」に注力している。
阿部氏が考えるGameWithにおける「組織力」とは、「独自の判断ができるミドルマネージャー層を量産すること」だという。
こうして質・量ともに、一人の優秀な人材を置くだけでは、マネできないアウトプットを実現するというのだ。
「GameWithでは、攻略系のサイトだけで約50サイトほどあるため、独自の判断ができるミドルマネージャーをそれぞれのサイトに立てている」(阿部氏)。
特にスマホゲームの場合は、瞬間的に急増する検索クエリも多いほか、SEOを取り巻く環境がサイトによって異なるため、こうした組織体制は欠かせないという。
とはいえGameWithのように、特定のトピックのコンテンツを広く深くカバーするやり方は、ジャンルによっては費用対効果が合わないため、注意が必要だという。
タイトル数が膨大で、かつそれぞれのゲームに関して深い情報が求められやすいスマホゲームには、非常に合ったやり方なのだろう。
ただ独自の判断でメディアを運営できる優秀な人材を採用・定着させることは、非常に難しい。
しかし、GameWithの場合は月に数人ほどの求人に対して約100人もの応募が集まり、且つ離職率がとても低い。
「ゲームが好きなら未経験でもOK」など、門戸を広げているほか、アルバイトから正社員へのキャリアパス制度も設けている。
また育成についても基本的な記事の書き方やSEO、アナリティクスの知識などに関する項目を細かく盛り込んだ「スキルチェックシート」を活用することで、網羅的にスキルを上げられる体制を整えた。
仮にスキル向上が滞った場合(その判断基準はトップダウンで作成)、マネージャーが介入して教えることになるが、その時の教え方も項目ごとに用意されているという念の入れようだ。
さらに社員に定着してもらう施策も徹底している。
それぞれのミドルマネージャーが異なる目標を追うことになるため、社内での一体感が薄れがちという課題がある中で、会社のミッション・ビジョンが、個々の事業とどう紐づいているかを具体的に説明するようにしているほか、社員にとって納得感のある目標設定にも注意を払っている。
この日の阿部氏による内容は、同社の組織作りに関する取り組みのほんの一端だという。
それでもこの原稿で紹介しきれなかった部分も多く、実践で培われた貴重なノウハウの分厚さを感じ取れた。