ニーズが発生したターゲットに対して、いかに「購買」に導くかをテーマにしたコンテンツ活用法は、River Pools and Spas社による啓蒙コンテンツを用いたリード育成事例をはじめ、当サイトでも様々な事例を取り上げてきた。しかし、商品やサービスへのニーズが発生していない段階や購買後など、購買プロセスの前後のフェーズにいる人に対しても、コンテンツを活用したコミュニケーションは有効だ。実際、マーケティングにおいてコンテンツが活用される場面には、下記の図のように3つのフェーズがある。
コンテンツマーケティングにおいて今までフォーカスされることの多かった「購買プロセス」のフェーズでは、商品・ブランドの認知から始まり、ニーズの掘り起こし、啓蒙、商品知識の提供などのコンテンツを通して、ターゲットを購買へと導くことを目的としている。しかし、購買プロセスの前後にもそれぞれコンテンツが活用されるべきフェーズがあることも心に留めておきたい。商品ニーズが発生し購買を意識し始める前の段階では「ブランディング」、購買後の段階では「リピート獲得とロイヤリティ向上」を目的としたコンテンツマーケティングが展開できるのだ。
今回は購買プロセスの前段階である「ブランディング」に注目してみよう。「ブランディング」というフェーズの中で、企業やブランドがいかに世界観やバリューをコンテンツによって表現し、独自性の高いブランドボイスの発信が可能なのかを、3つの事例を通して紹介したいと思う。
ティファニーといえば、恋人からの贈り物やウェディングに喜ばれるジュエリーブランドの代表格だ。「真実の愛」を支えるジュエリーとしてのブランドプロミスを伝達するために、同社のサイトには愛や結婚をコンセプトとしたコンテンツが展開されている。いろいろなカップルがどのように愛を育んできたのかを美しい写真とともに語る「Love Stories」や、恋愛を成就させるための名言を紹介する「Words of Love」など、理想的な愛や結婚の形が美しいビジュアルとともに語られ、人々の感性に訴えるものになっている。
注目すべきポイントは、商品情報を徹底的に排しているという点だ。その理由は、ジュエリーはさほど頻繁に購入されるものではないという商品特性にある。「商品をよく知ってもらい、その場で売ること」につなげることよりも、「いつか来る大切な日に思い出してもらうこと」を重視したコンテンツ設計になっているのだ。つまり、恋人に贈るタイミングや、贈り物をもらうタイミングが訪れたそのときに、真実の愛の象徴として選ばれるための“地位”を築いておくことを目的としているのだ。もしティファニーの商品がいかに素敵なものかをこと細かく訴求したとしても、高額なジュエリーであるだけに購買の機会を創出することは難しいに違いない。よって、直接的に購買に結びつくような“商売っ気”はあくまでバックヤードに隠し、ブランドイメージを“ストーリーとして語る”ことに重きをおいたコンテンツ活用の成功事例だと言える。
Rebecca Minkoffは“ダウンタウンロマンチック”をコンセプトとするNY発の女性向けファッションブランドだ。このブランドコンセプトを基に、サイト上ではファッションだけでなくあらゆる分野に関する情報発信を行っている。
同サイトのブログ「RMEdit」では、ファッション関連のニュースやスタイル提案だけでなく、NYで人気のレストランやメニュー、話題の音楽や動画、アート、おすすめの旅など、Rebecca Minkoffが推奨するカルチャーを幅広いジャンルで紹介している。カルチャーを語ることは、「こういう生き方をしたい」「こんな風になりたい」といった共感を呼んだり、憧れを醸成したりすることにつながる。感情の接点が生まれれば、いつかターゲットが購買プロセスに差し掛かった際に大きなアドバンテージを得られていることになる。つまり「憧れのNYスタイル=Rebecca Minkoffのファッション」という、ある種の刷り込みをすることが可能なのだ。
商品情報ではなく、ブランドが打ち出すカルチャーを軸にターゲットと接点を設けていくというブランドボイスで、競合にはない付加価値を生み出すことにつながる。また、カルチャーに対する共感や憧れを抱いた「将来の見込み客」とのポジティブな関係性は、感情的な「ウォンツ(wants)」を刺激し、購買プロセスをスムーズに後押しするに違いない。
女性向けのスポーツウェアブランドであるLorna Janeはブランドサイトとは別にコンテンツサイトを運営している。ここではブランドのキーワードである「”Move”, “Nourish”, “Believe”」(運動、栄養、豊かな心)をテーマに、Lorna Janeのウェアを愛用する女性が目指すべき健康的な暮らしにまつわる記事や動画などが頻繁にアップされているのだ。スポーツウェアを身に付けるシーンと関連性の高い「運動」や「スポーツ」にまつわるコンテンツではなく、その先にある健康的で幸せな生活をテーマとして扱っている点が同社のブランドボイスの特徴だ。
コンテンツサイト内には、健康を維持するために続けたい生活習慣、野菜を中心としたヘルシーなレシピ、トレーニングアイテムのお手入れ方法、ウェアを街で格好良く着こなすアドバイスなど、幅広いジャンルにまたがるコラムが用意されている。まさにLorna Janeが推奨したい、ヘルシーな女性のライフスタイルのお手本を用意しているようなものだ。このコンテンツはたとえ読者がまだ同ブランドの愛用者でなくとも、健康的で美しくありたいと願う多くの女性にとって非常に魅力ある内容であり、繰り返し訪れたくなる読み物となっている。
また、同ブランドの戦略で注目すべきは、コンテンツサイトの充実度だけではない。目的別に各SNSプラットフォームを使い分け、それぞれに適切なコンテンツを用意することで最適なエンゲージメントを実現していることだ。例えば読み応えのある記事やコラムは前述したコンテンツサイトで展開する。ユーザーとのタイムリーなコミュニケーションの場にはFacebookを、創業者であるLornaの思想や生き方を発信する場としてTwitterを、目で見て楽しいビジュアルコンテンツはInstagramを……というように、各プラットフォームが持つ特性をうまく活用してコンテンツを提供しているのだ。プラットフォームを適切に使い分けることによって、あらゆる角度からブランドについて知ってもらう機会を創出している。
カルチャーやライフスタイル、思想などをコンテンツとして発信することで、ブランドボイスを確立し、他社にはない価値やストーリーを届ける「ブランディング」。コンテンツに触れるユーザーの中で「共感」や「憧れ」という接点が生まれれば、購買のタイミングに至る前からよい関係性が築くことができる――新たなフェーズにおけるコンテンツの活用法が、今回紹介した3つの事例からも読み取れたのではないだろうか。