この記事は、新しいコンテンツマーケテイングの手引である書籍「DX時代のコンテンツマーケテイング」の第1章を、特別にオンラインで公開するものです。
改めて、コンテンツマーケティングとは、どのようなものなので、何を目的とするものなのでしょうか。この章では、米国で生まれたコンテンツマーケティングの定義を知り、そして、どのように変化してきたのかを整理することで、コンテンツマーケティングを体系的に理解していきたいと思います。
コンテンツマーケティングとは、「適切で価値ある一貫した」コンテンツを作り、届けるための手法全体を意味します。広告のように、生活者の時間に割り込むことなく、情報を求めている人に対して適切なタイミングで適切なコンテンツを提供するのがコンテンツマーケティングのアプローチです。
まず、コンテンツマーケティングとは何かについて確認しておきましょう。いくつかの定義がありますが、それらに大きな違いはありません。ここでは一番有名な、コンテンツマーケティング・インスティチュート(CMI)による定義を紹介します。
CMI によるコンテンツマーケティングの定義を日本語に訳すと、以下のようになります
コンテンツマーケティングとは、適切で価値ある一貫したコンテンツを作り、それ を伝達することにフォーカスした、戦略的なマーケティングの考え方である。見込客と して明確に定義された読者を引き寄せ、関係性を維持し、最終的には利益に結びつく行 動を促すことを目的とする。
定義の中では、特定のメディアやフォーマットについては触れられていません。つまりコンテンツマーケティングとは、ブログや動画など特定のメディアに縛られた手法ではないということになります。また、どんなコンテンツでもよいわけではなく、「適切で価値ある一貫したコンテンツ」と説明されている点も重要です。コンテンツマーケティングにおいては、明確に定義された見込客にとって、適切であり、価値があり、一貫性を備えたコンテンツであることが求められるのです。そんなコンテンツを作り、そして届けるための手法全体が コンテンツマーケティングということになります。
コンテンツマーケティングを従来の広告と比べると、より理解が深まります。広告は、生活者が何かを見ている、あるいは聴いている時間に割り込んで、一方的にメッセージを投げかけるという側面があります。しかし、テレビを見ながらスマホを操作するといった、「ながら視聴」で忙しい生活者にとって一方的なメッセージはノイズになってしまいます。
ところが、そんな忙しい生活者であっても、何かを購入する際には情報を探します。また、情報があふれる今日において、生活者は自分に必要な情報を見つけにくくなっています。
つまり、生活者が何かに夢中になっている時間に割り込んで、いきなり売り込むと拒絶されますが、生活者が自ら情報を探している時に情報を提供すれば、喜ばれる可能性が高まるのです。
このチャンスを利用するのがコンテンツマーケティングです。コンテンツマーケティングは、情報を求めている人に対して適切なタイミングで適切なコンテンツを提供するという素直なアプローチになります。
コンテンツマーケティングでは、コミュニケーションの自然なきっかけを作り出すために、生活者が探している情報が何かを理解し「適切なコンテンツ」を提供することが重要になります。
「企業が伝えたいこと」と「生活者が知りたいこと」の間に存在する「適切なコンテンツ」を段階的に提供するコミュニケーションで、生活者との信頼関係を構築し、購入支援を行う。これがコンテンツマーケティングの情報伝達構造になります。
次の図では、従来の広告とコンテンツマーケティングの違いを説明しています。従来の広告は、企業が伝えたいことを一方的に生活者に届けるスタイルでした。一方、コンテンツマーケティングは、生活者が知りたいと思ったときに、それに答える適切なコンテンツを用意することで出会いのきっかけを作り、まず両者の関係性を構築することを目的とします。
コンテンツマーケティングは、適切なコンテンツを適切なタイミングで提供するというシンプルな考え方であるため、時代とともに進化します。日本にも通じる、本場米国で展開されている4 段階のコンテンツマーケティングを紹介します。
定義からもわかるように、コンテンツマーケティングは、特に特定のメディアや技術に頼った手法ではありません。適切なコンテンツを適切なタイミングで提供するというシンプルな考え方であるために、時代とともにその見え方は変化しています。現在、本場米国におけるコンテンツマーケティングは4 段階目に進化していますが、必ずしも最新のコンテンツマーケティングを展開しないといけないというわけではありません。自社の商品やサービス、そして見込み客に適した手法を選択することが重要になります。
コンテンツマーケティングの起源としてよく紹介されるのが、1895 年に創刊された農業機械メーカーのディア・アンド・カンパニーの雑誌「The Furrow」です。
この雑誌には、土づくりや肥料のやり方など、自社の見込み客である農家に役立つ情報が掲載されています。自社の農機具を売り込むのではなく、農家が必要としている情報を提供することで信頼を勝ち取る、いわばコンテンツマーケティングの先駆けともいえるスタイルを100 年以上前から実践していたことになります。
紙メディアに頼る手法はもう古いのかというとそんなことはありません。2015 年に誕生したアメリカのスーツケースブランド「Away」は、D2C の代表例としても有名ですが、雑誌「Here」マガジンを発行していることでも知られています。紙メディアは、使い方を工夫すれば、今でも有効な手法といえます。
1991 年にウェブサイトが初めて公開され、1998 年にはGoogle が誕生しました。その後、2005 年から2006 年にかけてYouTube、Facebook、Twitter を始めとするSNS が登場すると、ウェブサイトやSNS 上で検索することにより、生活者は自分自身で積極的に情報を集めることができるようになりました。
生活者のこういった情報収集活動に対応するために、2010 年頃までにはオウンドメディアやSNS を活用したコンテンツマーケティングが盛んになりました。
この時期は、よいコンテンツを作れば、自然に見つけてもらうことができ、集客できるという時代でした。紙メディアしかなかった時代には、適切なタイミングで提供するということがなかなか実現できなかったのですが、デジタルメディアの力を得て、コンテンツマーケティングがようやく花開いた時代といえます。
コンテンツマーケティングの代表例として紹介されることが多い、アメリカのプール施工会社River Pools 社のウェブサイトができたのもこの頃です。「地中に埋めるタイプのプールを作るにはいくらかかる?」「良いファイバーグラス製プールの見分け方は?」といった疑問解決コンテンツを用意し、「プールを設置したい」と漠然と考えている見込み客が、より具体的に検討できるような道筋をウェブ上に作りました。
同社は、「見込み客の疑問に全て答える」という戦略でコンテンツマーケティングを実践し、リーマンショックの影響で陥った経営危機を乗り越えたのです。興味のある方はぜひ、River Pools 社のウェブサイトにアクセスをしてみてください。
デジタルマーケティングの力を取り入れて、順調に発展を続けたコンテンツマーケティングでしたが、新たな懸念が発生しました。「コンテンツマーケティングは終わった」、「コンテンツマーケティングは死んだ」といった記事が書かれるようになり、2015 年には、コンテンツマーケティングの淘汰の時代を予言する「コンテンツショック(コンテンツマーケティングの危機)」という記事( マーク・シェーファー氏のブログ記事)が話題となりました。そのポイントは以下の3 点になります。
コンテンツ量が増え続けて、人が消費できる限界を超えるようになると、
• 資金力のある大手企業が有利になる
• 新規企業による参入が難しくなる
• 費用対効果が悪化する
このブログ記事は、マーケティングコンサルタントのマーク・シェーファー 氏が著書をプロモーションするために書かれたものではあったのですが、Facebook が、2014 年に企業の投稿に対するオーガニックリーチを減らす方針 を公表したこともあり、「よいコンテンツを作れば、ユーザーは必ず見つけてくれる」というコンテンツマーケティングの神話が揺らぎだした時期でもあります。
コンテンツショックの影響もあり、SNS 広告やネイティブ広告を活用したコンテンツプロモーションが盛んになっていきました。コンテンツマーケティングは広告と対照的な施策として位置づけられていましたが、見つけてもらうという考えだけでは通用せず、コンテンツにもプロモーションが必要な状況になっていったのです。コンテンツマーケティングがマーケティングコミュニケーションの核となる戦略として捉えられるようになり、広告もその手段として取り入れられるようになっていきました。
2017 年、CMI の創設者であるジョー・プリッツィ氏は、商品を作ってから見込み客を集めるのではなく、見込み客を集めてから商品を作るというオーディエンスファーストという考え方を、著書「Killing Marketing」で提唱しました。
また、共著者であるロバート・ローズ氏は、顧客化(商品購入)を目的としたカスタマージャーニーマップに加え、オーディエンス化を目的としたカスタマージャーニーマップを並行して用意し、生活者がこの二つを行き来できるようにすることが重要であるという考え方を、ブログ記事やカンファレンスで主張しています。オーディエンスを資産として捉え、その価値を重視する考え方になります。
この段階になると、企業が本当の意味でメディア化し、企業がメディアを運営しているのか、メディアが商品を販売しているのかの境界が曖昧になります。このレベルのコンテンツマーケティングを実現できれば、メディア運営自体でも収益を上げることができ、それまでコストであったマーケティングの位置づけが大きく変わるとジョー・プリッツィ氏は主張しています。
コンテンツマーケティング4.0 の例としては、Buzzfeedが運営するTastyが挙げられます。Tasty は手元を俯瞰撮影したレシピ動画で有名ですが、今や、調理器具、料理本、食品、調味料などを販売しています。オリジナルのレシピ動画でオーディエンスを獲得し、その後どんな商品やサービスを必要としているかを学習。機が熟したところで商品を販売するといった理想的な展開を実現しています。
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