コンテンツマーケティングの概念や、戦略的な手法については、これまで多くの議論が交わされてきた。コンテンツマーケティングに関する世界初の著書『Get Content, Get Customer』が出版されてから今年で5年目。議論は今も途絶えることなく続いており、発展し続けている。
この発展の過程で、テクニカルな手法にのみ焦点を当てたような議論が盛り上がったこともある。そんななか、イギリスを拠点とする一部のマーケターの中では、「プランニングやツールだけでなく、核となるコンテンツを最も重視するべきだ」という、これまでのテクニック論からの揺り戻しとも言える原点回帰の傾向が起こっている。
その源流、きっかけとなったのは、英国のコンテンツマーケティングエージェンシーで活躍している、Sonja Jefferson氏とSharon Tanton氏の2人が2012年に執筆した著書『Valuable Content』である。本記事ではその内容をご紹介する。
第1章Why Valuable Content? では、コンテンツマーケティング担当者のマインドセットについて問いかけている。古い時代の広告モデルは、テレビCMのように露出が確保されているチャネルを活用して売り込むことを重視していた。しかし、現在はチャネルが多様化し、オーディエンスも分散していることから、コンテンツの質で露出やエンゲージメント、集客を図ることが重要だ。
古い時代の広告モデルを信じ続けている人は、コンテンツの質の重要性を理解しづらいため、コンテンツを量産し、提供しつづければよいという勘違いに陥ってしまいがちだ。コンテンツマーケティングの核心とは、消費者から信頼され、さらに共有したいと思われるような「価値の高い」コンテンツを提供することである。高品質なコンテンツを提供する結果として集客や露出が確保されるのだ。
それでは、共有したいと思われるような「価値の高い」コンテンツとはどのようなものか。著者は本著の中でその要素を明らかにしている。
第2章What Valuable Content? では、多様化するデジタルチャネルの種類に応じたコンテンツの在り方に関する提言が行われている。コンテンツマーケティングの特長の一つは、あらゆるチャネルでの戦略に活用できることである。ブログ、SNS、メールマガジン、SEO、ウェブサイト、ホワイトペーパー、e-book、書籍… 幅広いチャネルにおいて、それぞれに適した「価値の高い」コンテンツとはどのようなものだろうか。ここでは、ブログとSNSをピックアップし、紹介したい。
●ブログ
コンテンツを発信していく上で、まず取り組むべきプラットフォームはブログである。コンテンツマーケティングにおけるブログは、企業や個人が専門としている分野について語る場であり、売り込み文句や企業に関するニュースを発信していく場ではない。ブログに記事を書くことで、検索結果に表示されやすくなり、ニッチなニーズを持った顧客と接点を持ちやすくなる。また、自らの考えやノウハウを発信していくことで、知識と経験が備わっていることをアピールする機会にもなる。
しかし、いきなり「ブログを開設して更新を続けろ」と言われても、何について書いたら良いかわからないという担当者は少なくないだろう。そこで、本書ではブログのトピックを考える際に活かせるアイデアを20挙げている。
例えば、「アドバイスリストを作る」「How-toガイドを作る」「関連性のあるニュースについてコメントする」などすぐに取り掛かれそうな提言が数多く書かれている。
●ウェブサイト
コンテンツマーケティングにおけるウェブサイトは、自社についてのみ語る場ではなく、閲覧者である顧客に役立つ情報や体験をもたらす情報やツールを提供する場であるべきだ。そのため、一人称の記述が多い一方的なサイトではなく、二人称である顧客の目線を意識した、メッセージ性のあるサイトを作っていくことが重要となる。
コンテンツマーケティングの視点を取り入れたウェブサイト制作を行うため、本著では以下のようなプロセスが紹介されている。
第3章How to make your marketing valuable? では、コンテンツの重要性を理解し、チャネルごとにどのようなコンテンツを提供するべきかを整理した後のステップ、コンテンツの実制作について書かれている。その中でも特に参考にしたいのが、コンテンツの核となる「記事作成」と、各チャネルのコンテンツをまとめ、編集し、管理する「プロジェクトマネジメント」に関する点だ。
本著では、記事作成において魅力的な文章を作るためのコツがまとめられている。「何について書くか」というトピック選びに関する点だけでなく、感情やトーンの演出、専門用語を省いた表現、タイトルの付け方や構成の仕方など、コンテンツにさらなる価値を付け加えることができるテクニックが紹介されている。
また、プロジェクトマネジメントにおいては、成功につながる7つのステップが紹介されている。これらに沿ってコンテンツマーケケティングを準備することで、コンテンツと戦略の足並みが揃っていることを確認できるだろう。
著者であるSonja Jefferson氏とSharon Tanton氏は本書の末尾で「私たちは、顧客にとって価値の高い情報(コンテンツ)を届けていくことに注力する」と主張している。顧客がアクセスできる情報量が増えた現代だからこそ、わかりやすく、参考になり、誰かに伝えたくなるような、「価値が高い」と感じられるコンテンツが必要なのではないか。
コンテンツの価値を評価するのは消費者であり、決して企業の中の人間ではない。消費者にとって使いやすく、悩みを解決してくれたり、喜ばせてくれるような利便性のあるコンテンツを提供することこそが、本当のコンテンツマーケティングの秘訣なのだ。