この本が出版されたのは、グーグルが出現してから約10年後の2008年。すでに多くの家庭にインターネットが普及し、世の中の消費者はウェブを駆使して必要な情報を得る術をすでに身に着けていた。検索サイトやRSS、SNSなどが浸透し、情報リッチな社会の中、消費者にとって情報は与えられるものではなく、自ら探しにいくものに変化しつつあった。
しかし、この消費者行動の変化に順応できていなかった企業のマーケティング活動は壁にぶつかっていた。多くの場合、マス広告文化で培われた“一方的なメッセージ発信”をマーケティング活動の軸とし、情報が消費者のニーズにあっているかということよりも、いかにダイナミックなメッセージで認知されるかということばかりを重視していた。そのため、情報を「探してもらう」という発想がなかったのだ。(詳しくは記事「基本コンセプト“Like a Publisher”」を参照)
“消費者のニーズ”と“企業のマーケティング”のギャップに対し、メスを入れたのがまさに本書である。従来の割り込み型のマーケティング手法の効果が低下し始めている事実を改めて明確にした上で、消費者行動に適切なコミュニケーション手法として、消費者の行動や情報ニーズに合わせた「コンテンツマーケティング」の考え方を紹介している。
本書では、コンテンツマーケティングは以下のような言葉で説明されている。
Content marketing is the art of understanding exactly what your customer needs to know and delivering it to them in a relevant and compelling way.
コンテンツマーケティングとは、顧客が何を知る必要があるか理解し、その情報を適切で説得力のある形で届ける技法である。
つまり、コンテンツマーケティングとは、どのような情報を消費者が求めているのかと、どのような形でアウトプットするのがよいのかを考え抜くことを最も大切な軸としているのだ。ただし、この軸はどのようなターゲットを対象とし、どのような成果を目指すかによって、まったく方向性が変わってしまう。そのため、アウトプットする内容や手法を考える前に自社を知り、顧客や市場を理解し、目標を明確に設定することが成功には不可欠とされている。
また、本書の後半には、大企業から個人事業、NPOの事例まで幅広い業態での事例が15件掲載されている。マイクロサイト、ブログ、SNSといったデジタルメディアの利用方法や、トラディショナルな紙メディアとの組み合わせ方法等を、ケーススタディを通して学ぶことができる。コンテンツマーケティングについて学びたい、取り組みたいと考えている方に最初にお勧めしたい一冊だ。