顧客体験をデザインする上でペルソナは欠かせないものです。
ペルソナはコンセプト開発やデザインの評価基準としても使われるツールです。
私はアプリやサービスのほかプロダクト開発ではまず初めにペルソナを重点的に設計します。
マーケティングの文脈では、ターゲットを漠然とした「一面で捉える」のに対して、ペルソナは「1ユーザーを理解するもの」として位置付けられます。しかし、単に「ユーザーを理解するもの」といってしまうと、今までと同じではないかという誤った解釈を生むので、まず、ここをクリアーにしたいと思います。
第一にペルソナを設計する際に掘り下げるのはユーザーの課題です。 ペルソナはユーザーの課 題を自分ごとにするためのもので、「ユーザーに向き合う」という姿勢から一歩踏み込んで、 「ユーザー視点で課題に向き合う」姿勢が求められます。
第二にペルソナは視点を固定する装置です。固定した視点をチームが共有する事で初めてデザインの評価が出来ます。
ペルソナが無いUXデザインは誰に向けた体験か、誰の課題を解決するかを曖昧にしたままプロジェクトが進行する事になります。「シニアだから文字は大きめ」の様な解像度の低い雑な作 り方では課題の解決に至りません。
では、ペルソナが持つ人物モデルの構造と視点をどう設計するのか?従来のペルソナと区別す るために、本稿ではペルソナ2.0と呼ぶことにして解説したいと思います。
一人称視点を持つ人物モデル。ペルソナ2.0ではペルソナをこのように定義します。
前述のようにペルソナは視点を固定する装置でもあり、課題を自分ごとにするための一人称視 点=物の見方・考え方・感じ方をモデル化したものです。解決するのはペルソナの課題ですか らペルソナと課題を一体のものと考え、課題解決へのシナリオを組み立てます。
アプリやサービスの開発では、顧客の中でもプロダクトをもっとも欲するユーザー=コアユー ザーに照準を合わせます。従来の属性情報ばかりのシートを埋めていても顧客・コアユーザー の持つ課題を自分ごとにする事は難しいと思います。
ペルソナ2.0の作成においても、複数名を対象にインタビューを行います。
前述のように最重要事項は課題の深掘りです。ペルソナは何をどうしたいのか。それは何故なのか。課題を克服するために日常的にどんな取り組みをしているか。コアな課題は何か。そして、欲を言えばどこまで解決したいのか。最上級の解決とは何か。
ペルソナが抱いている課題を、「これだけは」、「欲を言えば」、「ここまで出来れば」といった3階層にします。各層のなぜ?を問いかけモデル化する材料を集めます。そして、日常環境やライフスタイルなどバックグラウンド情報をふるいに掛け人物像を作り上げます。
私は、複数インタビューの後、その内の一人に絞りもう一度インタビューを行います。なぜなら心の声をそう簡単に言語化が出来る人は少ないからです。言語化できても「好きです。」なんてそう簡単に言わないはずです。特に日本人はシャイですし本音と建て前を使い分けます。静かな部屋でインタビューをしても課題のなぜ?など一番フォーカスしたいところにメスは入らないのです。
ペルソナインタビューをするとインタビューの相手は大まかに3つのパターンに分かれます。まず、積極的に話してくれる人。彼らは承認欲求を満たすために発言しています。次が普通に話してくれる人。普通の人は話しやすいですが、得られる情報も平凡なものになります。マジョリティーです。そして、3番目が最も重要な、あまり話してくれない人になります。なかなか言い出せない事に課題の本質が隠れているように思います。
私が改めてインタビューをするのは3番目の話してくれない人々です。彼らを深掘りするため 1、2回場所を変えてインタビューします。立って話したり、外に出てみたりと緊張と緩和によって気分やムードを変えることに努めます。緊張と緩和の中で同じ質問をぶつけると、言葉を探しながら悩ましい事を話してくれる事があります。これが本当の課題ではないでしょうか。
このようにインタビューしていくことで、課題の3階層が明らかになり、一人称視点の構造化に必要な情報が集まります。そして日常環境やライフスタイルなどバックグラウンドデータと共にペルソナ像を精緻化していきます。しかし、まだ完成ではありません。ここからがペルソナ2.0における最も重要な作業が待っています。
ペルソナ2.0のフレーム、つまり一人称が憑依する器を設計した後に解像度の高い一人称を 「召喚」する作業を行います。具体的には、映画で用いられる手法を利用します。
ハリウッド映画の製作では登場人物を深く理解する為のキャラクター設定を行います。ストー リーは登場人物の動きによって展開するわけですが、設定されたシチュエーションで登場人物 がどう動くのか。どんな言葉を口にするのか。脚本家は俳優がキャラクターに成り切って自然 に振る舞えるよう人物像を掘り下げます。
キャラクターを立てる。何をしてる人か。見た目の印象と性格。秀でた特徴。クセ。口にしそうなセリフ。
キャラクターに肉付けする。食の好み。趣味。持ち歩く物。職場や家族。取り巻く環境。自宅の部屋の様子。特徴な過去の 記憶。社会観。家族観。影響を受けた人物や書籍。
日記を書く。上記のキャラクター設定した後、脚本家は登場人物の日記を書きます。キャラクター設定と一人称の日記を読む事で俳優は役に憑依し役に成りきる事が出来ます。監督始め、カメラ、スタイリスト、ヘアメイクのスタッフもキャラクターの質感や表情を理解して、キャラクターらしさを演出する事が出来るようになります。
以上は、映画製作において完成した人物設計の「型」です。この型を取り入れペルソナ日記を 書く事で解像度の高いペルソナが姿を現しはじめます。ペルソナの解像度が上がれば、カスタマージャーニーやUXデザインの解像度も上がっていきます。
映画製作では監督がシナリオを映像化するための絵コンテを作成します。
カスタマージャーニーマップを一つのストーリーとして捉え絵コンテを添えると従来のものと 景色が変わります。チーム全体でこの作業を進める事で様々な気付きを共有し、チームの成熟 を早める事が出来ます。
私は開発チームが一人称で理解し一人称で共創する力を共感共創力と呼んでいます。
ペルソナ2.0を使ってチームが共感共創力を得る、共感共創力に磨きをかけ共感できる体験・ 体感を生み出す。
それは、AIの時代に人と人が成すべき仕事の一つでは無いでしょうか。
以上、従来のペルソナを補完しアップデートしたペルソナ2.0を紹介しました。
今回は少し概念的なものが多かったので、次回はペルソナ2.0のワークシートを使ってその用 例を紹介したいと思います。
この度、このような形でコンテンツマーケティングラボへ寄稿出来ましたこと大変光栄に思います。そして、ここまで読んで下さった皆様へ感謝申し上げます。