前回、前々回とJTBD関連のツールで、コンテンツマーケティングにも活用できるものを紹介してきたが、これらのツールを生かすも殺すも、その前段階のインタビューが鍵となる。今回はJTBDの基本となるインタビュー技術について紹介したい。
JTBDにおけるインタビューは、一般的なユーザーインタビューとは大きく異なる点が一つある。それは「なぜその商品を買ったのか?」ということをダイレクトには訊かないという点だ。
なぜ訊かないのか?この連載の第1回で取り上げたミルクシェークの例からもわかるように、訊かれたとしても顧客は本当の理由を答えることができないことが多いからだ。もちろん質問されれば、少しお世辞も交えながら、機能やデザインが良かったからだという表層的な回答をしてくれることはあるだろう。しかしそうして得られた答えが役立つことは少ないし、最悪の場合、間違った答えを引き出すことにもつながりかねない。
「なぜその商品を買ったのか」については、直接聞き出すのではなく、その理由が自明になるまで、顧客が置かれた状況を理解することが重要だ。そのためにJTBDにおけるインタビューでは、顧客が購入に至ることになる、First Thought(最初のきっかけ)を聞き出すことにまず注力する。
但し、First Thoughtを聞き出すことは困難だ。なぜなら多くの場合、First Thoughtの段階において、顧客は受動的な状態であるからだ。人は自分が意識して行った能動的な行動については記憶していることが多いが、成り行きでなんとなく取った行動については、記憶が曖昧になりやすい。
JTBDではこの状態をPassive Looking(受動的な検索状態)と呼んでいる。この受動的な検索状態にいくつかのきっかけが作用すると、Active Looking(能動的な検索状態)になるのである。多くの場合、「この商品を買った理由はなんですか?」と質問して確認できるのは、Active Looking状態になった時の理由であることが多い。だから、その奥に眠る真の購買のきっかけ、つまりFirst Thoughtを見つけることは難しいのである。
ではどうしたら良いのであろう?まず、この真のきっかけを探り出すためには、ある程度時間をかけてインタビューを行うことが必要だ。そして、次に重要なのが、First Thought当時の記憶を思い出してもらうために、記憶を巻き戻したり、早送りしたりするための質問技術になる。
それは例えるならば、3日前に食べたランチを思い出すテクニックに似ているかもしれない。もちろんパッと思い出せるような優れた記憶の持ち主もいるだろうが、思い出せない人の方が多いだろう。
実はこの場合は、「何を食べたか」を思いだそうとするよりも、関連した情報である「ランチの前に何をしていたか」、あるいは「ランチの後にどこに行ったか」を思い出す方が効果的だ。
「そういえば、ミーティングが長引いたので、そのまま同僚と近くの定食屋に行った」となる関連情報を思い出せれば「とんかつ定食」を食べたことを思い出せる可能性が高まる。これが記憶の巻き戻しや早送りというテクニックになる。
記憶の巻き戻しの質問としては、例えば、「今まで使っていた商品のことを話してください」、「どんなことが起こったので、新しい商品が必用だと思ったのですか?」などになる。一方、早送りの質問としては、「なぜ同じ商品を選ばなかったのですか?」などになる。
重要なのは、購買行動を引き起こした状況と、その状況が人を購買という行動に駆り立てたエネルギーを把握することであり、今まで使っていた商品と、新しく購入した商品の違いや満足度を聞き出すことではない。この場合の状況とエネルギーとは、最終的には前回紹介した顧客に働く4つの力を把握することにつながる。
インタビューにおける注意点としては、顧客から聞き出した断片的な情報をインタビュアーが類推して勝手につなげてしまってはいけないということだ。これをしてしまうと、本当の因果関係を見つけることができない恐れがあるからだ。因果関係を勝手に決めつけずに、少し我慢して質問を続け、顧客に因果関係を語ってもらう必要がある。
また、彼らが使っている用語をそのまま使うということも重要だ。例えば、顧客が冬用タイヤという言葉を使ったのであれば、わざわざスタッドレスタイヤと言い直すことなく、冬用タイヤとそのまま使って会話を進めるべきだ。とにかく顧客主導で思い出す作業を支援するという姿勢が重要になる。その方が自然な流れでFirst Thoughtを聞き出しやすくなるからだ。
以下に、JTBDのインタビューで使う代表的な質問を紹介しておこう。
今回紹介したインタビューテクニックは「Jobs-to-be-Done The Handbook」(Chris Spiek、Bob Moesta共著)という書籍を参考にしている。この書籍はJobs-to-be-Doneのインタビューに的を絞った書籍だ。Jobs-to-be-Doneの提唱者であり、名付け親でもあるBob Moestaが書いている点でも重要な資料だ。興味がある方はご一読いただきたい。
さて今回でこのシリーズは終わりとなるが、JTBD関連のノウハウでコンテンツマーケティングに応用できそうな新たな情報を得た場合には、順次紹介していく予定だ。