コンテンツマーケティングの必要性が叫ばれるようになって久しい。しかしながら、いまだに成功事例が聞こえてこないのは、なぜか。これはひとえに、「正しいコンテンツマーケティング」を実践している企業が、極めて少ないことに起因する。
筆者が見る限り、 “日本式コンテンツマーケティング”とは、単に「オウンドメディア(自社メディア)の運営」を指すケースが多い。そこに、「誰にどうやって売るか」という「マーケティング」の概念は、存在しないのだ。売り上げに繋がらなければ、マーケティングとは呼べない。
筆者はこれまで、主に中小企業を対象に、コンテンツマーケティングのコンサルティングを行ってきた。その中で、ニッチな商材を扱う中小B2B企業において、コンテンツマーケティングが極めて有効であることが分かった。つまり、やり方さえ間違えなければ、コンテンツマーケティングは中小企業の“救世主”となり得るのだ。
本連載は、中小B2B企業のマーケティングもしくはWeb担当者を対象とするものである。日本におけるこれまでのコンテンツマーケティングに関する記事は、「PV(ページビュー)」「バズ」を生み出す方法を説明したものや、コンバージョンが曖昧(あいまい)なものが多かった。
本連載は、これらとは一線を画し、正しいコンテンツマーケティングの思考法、コンテンツマーケティングの導入・実践方法を中心に解説。読者に「結果に結びつくコンテンツマーケティング」のノウハウを提供する。
より多くの中小B2B企業がコンテンツマーケティングの有用性に気づき、自社に導入することを後押しできれば幸いである。
まず、コンテンツマーケティングの定義を整理しておきたい。
「コンテンツマーケティングとは、オウンドメディアを柱に、ペルソナにとって有益な情報を、戦略にもとづいた継続的かつ正しい方法で配信し、(潜在)顧客との信頼関係を構築。最終的に、コンバージョン(目的)につなげるマーケティング手法のこと」。
筆者が考えるコンテンツマーケティングとは、概ね以上のようなものである。コンテンツマーケティングは「マーケティング」をうたっているのだから、結果に繋がらなければやる意味がない。マーケティングとは、究極は「誰にどうやって売るか」を考えることである。
その観点に立った時、「このオウンドメディアで月間◯◯万PV(ページビュー)達成しました!」という“成果”を見せられても、議論は噛み合わない。
そもそも、筆者はPVを全く重視していない。繰り返しになるが、いくら美しいプロセスをたどっても、結果が出なければ意味がないからだ。これは、前職の新聞記者時代に痛感したことである。
読者の中には、新聞記者がネタを取ったなら、すぐに紙面に掲載できると思っている方も、いらっしゃるかもしれない。
しかしながら、一つのネタの周りには多くの利害関係者がおり、タイミングが来るまで世に送り出すことは難しい。特に事件取材ならなおさらだ。本当に勝負の時には、全てを失うことを覚悟して載せることもあるが、これは極めて稀なケースである。
話の本筋から離れてしまうため、詳しい説明は割愛するが、基本的にはネタを取ってからも取材を続け、情報の精度を高めつつ、タイミングを待つことになる。そして、そうこうしているうちに、他社に抜かれて(先に書かれて)しまうことが、往々にしてある。
抜かれれば、当然上司に叱責される。なぜ抜かれたのか、と。その場で「取材の過程では他社に大きく先行していた」と説明しても、全く無駄である。なぜなら、記者の世界は、結果が全てだからだ。そして、これはビジネスの世界でも共通することである。
一部の例外もあるかもしれないが、特に中小企業の場合、セールスパーソン(場合によっては経営者)が案件を獲得しなければ、業績は伸びない。 クロージングをかける段階までこぎつけても、受注できなければ、売り上げは1円も伸びない。
これをコンテンツマーケティングに置き換えてみよう。現代のコンテンツマーケティングは、オーディエンス(読者)にも価値があると考えられている。その意味では、PVは初期段階のKPI(重要業績評価指標)としては十分アリだ。
しかし、それが果たしてコンバージョン(目的のアクション)にどれだけつながっているのだろうか。正しいコンバージョンを設定し、かつ計測しなければ、コンテンツマーケティングが成功したか否かを判断することはできない。
PVのみをアピールした“成功事例”に限って、コンバージョンが曖昧なケースは多い。
ここで、残念なお知らせがある。コンテンツマーケティングは、商材によっては、結果がほとんど期待できない。
先に述べたが、コンテンツマーケティングの商材は、ニッチであるべきだ。
SEOをかじったことがある人は、想像してほしい。「シャンプー」「化粧品」「サプリメント」。これらのキーワードを聞いて「勝てる」と感じるだろうか。天文学的な予算をかけて、コンテンツSEOやWeb広告などに精を出す必要があるはずだ。そして、その勝負に勝ち、自社サイトやランディングページにユーザーを連れてきたとして、果たして購買行動や問い合わせに繋がるのだろうか。
一方で、「業務用ネジ」「◯◯照明 卸売」(◯◯は照明の具体的な種類)だとどうだろうか。それほど労力をかけることなく、順位を上げることができると感じただろう。
言うまでもないが、「シャンプー」「アイスクリーム」「Tシャツ」は検索ボリュームが大きく、競合が多いキーワードである。一方の「業務用 ネジ」「◯◯照明 卸売」は、検索ボリュームが小さく、前者ほど競合は多くない。
コンテンツを積み上げることにより検索順位を上げる、いわゆる「コンテンツSEO」。これはコンテンツマーケティングの入り口(認知)の部分で、極めて重要な要素である。ただし、巷で言われているように「コンテンツSEO=コンテンツマーケティング」というわけでは、決してない。
「定義」で述べた通り、(潜在)顧客と信頼関係を構築し、コンバージョンにつなげなければならないのだ。したがって、コンテンツSEOはあくまでコンテンツマーケティングの全体像の中の一部分に過ぎないことを指摘しておく。
商材選定についてもう少し詳しく見ていこう。
冒頭に「ランチェスター戦略」に言及したが、中小企業は、その中の「弱者の戦略」をとるべきだ。市場を分析し、業界1位になることも夢物語でない、ニッチな商材を選択することが大原則。どうしても何社もの競合がいる商材であれば、地域を限定してみる。そうして自分たちがトップを目指せるフィールドを探してから、はじめてコンテンツマーケティングの戦略が立てられるのだ。
戦うフィールドを間違えてしまうと、良い結果は望めない。セミナーを開催すると、「住宅や車などの商材はコンテンツマーケティングに向いているのか」との質問を、本当によく受ける。答えは半分イエス、半分ノーだ。
その判断基準は、はっきりとしたペルソナ(ターゲットの具体的な人物像)を一人に絞れるかどうか、に尽きる。
詳しくは本連載の別の原稿で説明するが、ペルソナがぼんやりしていたり、2人いたりした時点で、テレビや新聞などのマスマーケティングに舵を切るべきだ(※)。戦うフィールドが正しいかどうか、先にペルソナを設定してみることでも判断できる。
中小企業の場合、もう一つ忘れてはならないのが、ROI (投資利益率)である。先ほどのキーワード群(「シャンプー」「アイスクリーム」「Tシャツ」&「業務用 ネジ」「◯◯照明 卸売」)。前者はB2C、後者はB2Bということにお気づきだろうか。
どういうわけか、日本のコンテンツマーケティングは、B2C商材が多い。もちろん、戦うフィールドが正しければ、コンバージョンに至るまでの流れはイメージできる。しかしながら、商材の単価が安ければ、投下したマーケティングコストの回収は、困難を極める。
特に、中小企業であれば、コンテンツマーケティングに人員や予算をかけたがために、経営が苦しくなるという深刻なケースもあり得るだろう。
繰り返しになるが、「誰にどうやって売るか」を考えるのがマーケティングである。結果を出さなければ、マーケティングではない。コンテンツマーケティングという「手段」ばかりに気を取られ、本来の目的を見失わないよう、くれぐれもご注意願いたい。