過去4回にわたって、コンテンツマーケティングとウェブ解析をどう紐づけて運用するべきかを解説させていただきました。今回はその最終回。コンテンツマーケティングの解析手法について解説させていただきます。この連載はウェブ上で展開されるコンテンツマーケティングについて解説させていただいていますので、ここでいうコンテンツマーケティングの解析はウェブ解析のことを指します。
一般的にウェブ解析には2つの大きな役割があります。
健康診断をするだけだとコンテンツマーケティングに掛けた費用を回収することはできないので、ここでは2番の解説を行います。
2016年4月11月から、Google Analyticsで、ユーザー一人一人について、「どのページを見て、コンバージョンしたか」等を確認できる機能「ユーザーエクスプローラー」が正式リリースされました。(「ユーザーエクスプローラーは2016年3月下旬から確認され始めていましたが、4月11日に正式アナウンスがありました。)
「ユーザーエクスプローラー」のリリースが転換点となり、ウェブ解析のトレンドが大きく変化し始めました。短い言葉で表現すると、
「サイトがどう使われているのかの解析」から
「ユーザーがどうサイト使っているのかの解析」への転換
です。
つまり「このページがどう使われているか」という議論は「ページ」が主語なので、2016年以前のウェブ解析です。「ユーザーがどう使っているか」というのが、2016年以降のウェブ解析なのです。
「ユーザーがどう使っているか」を知るためには、具体的にどんな解析をすればよいのでしょうか。実際に、Google Analytics 「ユーザーエクスプローラー」の画面を見ていただくのが一番早いと思います。
下記の図2が「ユーザーエクスプローラー」の画面で、赤線で囲んである部分の1行が1人分のデータです。ここには、1行に1人分のデータが保存してあり、ドリルダウンすると、たとえば過去に20回サイトを訪れたユーザーであれば、20セッション毎のデータが保存してあります。その20回のそれぞれの訪問の際に、どのページを見たのかという情報が記録されています。
上記、図2のレポート画面で1人のユーザーをクリックすると、下記のような画面になります。
この画面では、この1人のユーザーが、
といったことが分かります。
ここでたとえば、10月27日の2回目の訪問をクリックすると、下記のような画面が開きます。
ユーザーがいつ、どのページを見ていたのかが時系列で分かります。このようにして、下記の図5にあるようなイメージでユーザー毎の行動データを集めることができます。
上記の状態でも、1人1人の行動から、その背景にある心理を推測し、様々なインサイトを得ることができます。しかしこのままでは、サイト改善にとって使いやすいデータであるとは言えません。
サイト改善に役立つ解析データの条件は、下記のことが分かる解析データです。
これが分かるデータが、サイト改善に役立つデータです。こうしたデータを得るためには、下記の図6にあるような、複数のユーザーのデータをとりまとめた、統合されたデータを作る必要があります。
問題は、複数のユーザーのデータをどうやって統合するかです。AIを使って統合するのが最も効率的ですが、それについては後述します。まだAIが導入できないという場合は、人力で統合するしかありません。この場合は、次の手順で解析を行います。
ユーザーエクスプローラーで「ある程度のまとまり」を作るためには、右上にある「アドバンス」を使用します。
決済機能のあるサイトであれば、たとえば、上記図8のような、「セッション5回以上」かつ「トランザクション1回以上」のユーザーを抽出することができます。
そこから抽出したユーザーの一人を赤線で囲みました(上記、図9)。このユーザーは、訪問6回、トランザクション1回というユーザーです。このユーザーのクライアントIDをクリックしてみましょう。
図10にあるように、
初回訪問 8月10日
2回目の訪問 8月14日
3回目の訪問 8月25日
4回目の訪問 9月4日 ここでトランザクション発生
という、このユーザーの行動履歴がわかります。
8月10日の初回訪問の時には何をしていたのかを見てみると、
下が古い行動になっていますので、下から順に見ます。
「サイトのトップ」 ⇒ 「ブログのトップ」 ⇒ 「コーンブレッドの記事」を読んだ
ということが分かります。
以上が、ユーザーエクスプローラーによる、「ある程度のまとまりを作る」⇒「まとまりを作った中から、一人一人のデータを取り出して解析する」の解析例となります。
上記の「ある程度のまとまりを作る」⇒「まとまりを作った中から、一人一人のデータを取り出して解析する」という解析手法は、ユーザー行動の統合作業を人力で行うので、アナリストの力量と解析に使える時間の長さにアウトプットのクオリティが左右される点がネックです。
身も蓋も無い話ですが、たとえば、1,000人の行動データから、共通する行動パターンを解析するというタスクは、人間はあまり得意ではありません。現在、日本だけでなく、世界的に見て、この「共通する行動パターン」をくくり出す性能で一歩リードしているのが日本のBeBit社の「ユーザーグラム」というツールです。優れたウェブマーケティングツールはたいてい北米かEUからやって来ますが、この分野に関しては、現在BeBit社が最もリードしています(2018年10月現在)。Google Analyticsのユーザーエクスプローラーのデータをインポートして解析することはできませんので、ユーザーグラムの独自解析コードをタグマネージャー等で実装する必要がありますが、導入の手間は、一般的な解析ツールと変わりません。ユーザーグラムの機能が優れている点は次の2点です。
こうした解析にはもちろんAIが使われていて、ユーザーグラムのAIは現在進行形で開発が進んでいます。
分かっている方には当たり前の話になってしまいますが、もしBtoBのサイトでコンテンツマーケティングを行うなら、ウェブ解析ツールとMA(マーケティングオートメーション)ツールを連携させなくてはなりません。たとえば「ウェブページの閲覧」と「キャンペーンメールの開封」は、同じ土俵に載せて評価(スコアリング)しなくてはならないからです。具体的には、下記のようにスコアを付けます。
ユーザーの行動 | スコア |
---|---|
ウェブでの価格表の閲覧 | 20 |
キャンペーンメールの開封 | 50 |
ウェブ解析の目的が「データを解析してサイトを改善すること」であるのに対して、MAの目的は「ユーザーのスコアに応じてコミュニケーションの質と量を最適化すること」です。本来この2つは一体化させるべきものです。
MAツール自体は、サイト解析に利用されることを目的として開発されたものではないため、ユーザー行動の統合という点に関しては、まだまだ進化を待ちたいところですが、ユーザー行動の背後にある心理を知るためのツールとしては、現時点で既にリアルでなまなましいデータを提供してくれています。筆者が所属する会社でもGoogle AnalyticsとPardot(MAツールの一つ)を併用した解析を行っています。
コンテンツマーケティングのウェブ解析が目指すべきゴールは、
「ユーザーが抱えているそれぞれの問題を根本的に解決するコンテンツ、または、解決につながるコンテンツを、最適なタイミングで提供すること」
です。ユーザーの抱えている問題が1種類でない場合は、問題ごとにコンテンツが必要になります。そのようなゴールにたどり着くためには、今回ご紹介したような、ユーザー中心の解析を行うことが必要になります。
5回にわたって、コンテンツマーケティングとウェブ解析をどう紐づけて運用するべきかを解説させていただきました。最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。皆様のコンテンツマーケティングが成功することを祈っております。