2015年12月に出版された『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』(株式会社日本SPセンター (著)、エムディエヌコーポレーション)は、それまで高額なコンサルフィーを払わなければ得られなかったコンテンツマーケティングのノウハウが体系的にまとめられた画期的な本でした。
この本で紹介されている手順通りに進めれば、コンテンツマーケティングのPDCAサイクルは回ると断言できます。
PDCAサイクルとは、やるべきことを手順通りにやれば、誰でも回せるものなのです。
しかし、弊社に持ち込まれるコンテンツマーケティング案件の中に、PDCAが回らないという相談が数多く含まれているのはなぜでしょう。
PDCAサイクルが回っていない案件には、共通したある特徴があります。
それは、図1の中のうちの2つのプロセスを飛ばして、コンテンツが公開されることです。読者の皆様は、どのプロセスかお分かりでしょうか。
PDCAサイクルが回っていないコンテンツマーケティングに共通しているのは図1の次の2つが飛ばされていることです。
この2つのプロセスについて、チーム内で十分な検討が行われず、結論が出ないまま、コンテンツの公開が始まってしまっているということです。
しかしコンテンツ公開直後の段階では、この2つのプロセスが飛ばされていても実害はありません。コンテンツを閲覧するユーザーがそのことに気づかないからです。
ただコンテンツマーケティングを運用するチームの上司にあたる人物から、「先日公開したコンテンツの効果を報告せよ」と指示が飛んだ瞬間に、現場はフリーズしてしまことになります。
2つのプロセスを飛ばしてしまったことで、図1の「⑥ウェブ解析」が機能しないためです。
CTAが設定されていないということは、解析ツールによって必要な指標を計測するために求められる設定などが終わっていないことを意味します。
また、KPIが設定されていないということは、見るべき指標、すなわち、「どの数字がどうなったら、このコンテンツマーケティングが成功なのか」が決まっていない状態であることを意味します。
解析が進まないコンテンツマーケティング案件は、残念ながら炎上案件の道をたどることになります。
これからのお話は、コンテンツマーケティングの炎上案件を一つでも減らしたいという願いを込めて書かせていただいています。
私が働いている会社はマーケティング解析の会社なので、いただく案件は、次のようなお客様のお問い合わせから始まることがほとんどです。
「ウェブ解析がうまくいっていないので、PDCAがうまく回っていない。だから、本当はもっとうまくいくはずのウェブマーケティングがうまくいっていない」。
残念ながらこういう状況で私を呼んでいただいても、出来ることと言えば、ヒートマップでユーザーの行動を解析してUI改善と導線改善を行い、CVRを少し上げることだけです。
それでもお客様は喜んでは下さいますが、これは、手術をしないで包帯を綺麗に巻き直しただけで、悪い所をそのまま残してしまっている状態です。
成果を出さなければならないタイムリミットまで少しでも時間があるのであれば、私は『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』P34の「ペルソナ設定」のところを見せながら話をきいていただくことにしています。(この本は少々重いですが、いつも私のカバンの中にはいっています。)
お客様の中には、「ペルソナが必要なのは大規模リニューアル案件のような場合でしょう。いま私が担当しているのはランディングページ1ページだけ。ペルソナの話を聞かされてもオーバースペックです」と言う方もおられます。
「時間がないのですから、うまくいく方法をさっさと当てはめて、施策をスタートさせてください」と焦りの表情で迫って来られます。
こういう考え方のお客様は、1年後に訪問しても、まったく同じ悩みを抱えた状態のままです。これは何もお客様が怠惰なわけではなく、「ペルソナ設定」からはじめるウェブマーケティングの成功体験に触れる機会がなかっただけなのです。
コンテンツマーケティングのPDCAサイクルを回すために何よりも大事なことは、ターゲットとなるユーザー像を明確にすることです。そうしないと、コンテンツがうまく機能しているかを判断できないからです。
ペルソナを設定することで、ユーザーが抱えている課題とその解決策としてのコンテンツを伝達するための手法や切り口がイメージしやすくなります。
そのイメージをチーム内で共有することで、その後のコンテンツマーケティングのプロセスの手戻りを少なくすることができます。複数の人が関わるコンテンツマーケティングの現場では、ペルソナは共通言語に相当するものなのです。
たとえばキャラクターデザインが終わらなければ、アニメの原画を描く作業にとりかかることはできないのと同様に、本来はペルソナ設定が終わらなければ、コンテンツマーケティングのプランニングを進めることはできないはずなのです。
ペルソナを設定するにあたっては、まず、「顧客の商品認知レベル」を設定する必要があります。
ペルソナ設定に必要なファクトを集めるために、まず既存のお客様から理想的なカスタマーを抽出し、ひとつのペルソナあたり3~5人のカスタマーにインタビューします。
しかしカスタマーにインタビューしようとすると、その調整に1か月前後かかってしまうことも珍しくありません。これでは、時間を取られすぎです。
そこで私の場合は、「お客様に直接接しておられる社員の方3~5人にインタビューさせてください」とお願いすることにしています。これなら1週間以内に日程調整できます。
職種としては、営業、カスタマーサクセス、ユーザーサポート、コールセンターといった部門に所属する方々です。
彼らにインタビューすることで、時間のロスを回避するようにしています。インタビューした結果はチームで共有できるように、下記のフォーマットに整理します。
ここまで説明した「ペルソナ設定」を行うことで、「誰に」が明確になります。
さらに「カスタマージャーニーマップ設定」を行うことで、どの媒体やフォーマットを使い、どのような順序でコンテンツを伝達したらよいかを明確にできます。購買プロセスを何段階に分けるかは商品やサービスによって異なりますが、基本的には「状況」「マインド」「情報ニーズ」「行動」の4つの要素を整理しながらマッピングします。
カスタマージャーニーマップは、下記のような姿になります。横軸が購買プロセス(「認知」「情報収集」「比較検討」「購入」)、縦軸が図4で見た要素(「状況」「マインド」「情報ニーズ」「行動」)です。
海外のコンサルティング会社が作成するものを見ると、もっとグラフィカルなものもよく見かけます。アート作品並みの美しさではありますが、完成後にチューニングしようとすると時間とコストが掛かってしまうので、現場で使うには、むしろベーシックな姿の方が望ましいのです。
上記の4×4の表の下に、次回以降で紹介する「コンテンツ」「媒体・フォーマット」「CTA」「KPI」の行が追加されることで、コンテンツマーケティングとウェブ解析に必要な基本設計が同時にできあがります。
図5のマップをつくる目的は、芋づる式に説明することができます。
ここまでくれば、Google Analyticsやヒートマップツールをどう設定しなくてはならないか、週次、月次のレポートで誰に何を報告しなければならないかを決めることができます。
逆に上記の手順を踏んでいない場合は、レポートの作り手の力量に左右される、きわめて属人性の濃いレポートしか出せなくなってしまいます。
これら一連の項目は、大工さんの仕事に順番があるように、順を追って進めないとうまくいきません。詳細な手順を知りたい方は、『Webコンテンツマーケティング サイトを成功に導く現場の教科書』の「CHAPTER2」を読まれることをおすすめします。
ちなみに今回ご紹介した「ペルソナ設定」「カスタマージャーニーマップ設定」を外注すると、業界の相場はおおよそ200万円からです。
しかしこれらの本質は顧客理解ですから、本来は事業会社の中の人の方が誰よりもうまくできるはずなのです。
やり方さえ習得できれば、社内でもきっとうまくできます。貴社の顧客を一番理解しているのは、貴社の社員であることをどうか忘れないでください。
次回の記事では、図5の表の下につながる「コンテンツ」「媒体・フォーマット」について解説します。