記念すべき第1回は、農林水産省の『aff(あふ)』です。
取材のお願いに応えてくれたのは、農林水産省の『aff(あふ)』編集班の皆さん(大木昇さん、松本純子さん、弦本渓太さん)です。ご協力いただき、ありがとうございます。
「aff(あふ)」は、農林水産省が発行するWebマガジン。PDF版もあり、DLも可能です。もちろん、無料で閲覧できます。
記事は、農林水産業の生産者たちの取り組みだけでなく、消費者に身近な食材情報や暮らしの豆知識などを写真やイラストを使い、わかりやすく発信。
ちなみに、agriculture(=農業)、forestry(=林業)、fisheries(=水産業)の頭文字をとって
「aff(あふ)」なのです。
創刊されたのは1970年(昭和45年)10月。当初は、農林水産省の施策についての説明を伝えるための堅い広報誌(月刊誌)だったようです。
世の中も変革し続け、国民の食卓も大きく変わってきたなかで、かつての「省からのメッセージ発信」から「消費者軸の情報発信」「読者目線の読み物」へ転換しました。
これまで続けてきた正しい情報発信とともに、より「伝わる」紙面づくりにも注力されることとなりました。現在では、一般向けに農水省のブランディングの側面も担っていると感じます。
ターゲットは全国民であり、生産者と消費者すべて。分け隔てなく、誰にでもわかりやすく伝える姿勢が大切、といいます。
内容も「食の安全」「生産者・生産現場の紹介」から「食育」「食材の豆知識」まで幅広く、決して白書的な内容ではなく、読んで楽しい広報誌が編集方針なのです。
現在のスタイル「Webマガジン化」したのは2019年のことでした。この時はまだ月刊誌のままでしたが、翌2020年から週刊化されました。
『aff(あふ)』編集班のメンバーは現在3名。 企画立案はこの編集班が主導で行っています。
年度初めに年間特集テーマを決定し、月ごとの特集を計画。
そして、制作協力会社に委託して、具体的なページ・記事の構成、取材、デザインなどを共同制作。こうしたなかで、制作協力会社は毎年度入札で決定するため、変わる場合もあるそうですし、また、省内編集班の定期的な人事異動も発生します。
担当者の異動サイクルはおよそ2年周期が一般的とのことですが、 なかには、松本さんのように4年以上携わることもあります。
一般の民間企業とは異なる省庁ならではの制約もある中で、継続した発信を続けていくご苦労を感じます。
こうした状況で一貫したコンテンツ発信を続けていくためには、オウンドメディアとしての方針や方向性が明確でなければいけません。様々な担当者、制作者が関わり入れ替わっていく中で、「このメディアが目指すところは何なのか?」「読者(受け手)にどんな価値を届けたいのか?」といったオウンドメディア戦略が重要だと感じました。
GA4(Google Analytics 4)で閲覧データを管理。制作協力会社が月次レポートを提出していますが、編集班としても随時GA4を確認しているそうです。
実は、「Webマガジン版」と「PDF版」はそれぞれ別に制作しており、同じ内容でレイアウトが若干違います。今後は見直しも検討中のようですが、「PDF版には昔からの根強いファンも多いので続けている」とのこと。
自宅でプリントアウトして保存している読者のほか、『aff(あふ)』ターゲットの中には外部のコンテンツ制作者も含まれ、雑誌やWEBメディア等での食材情報や生産地情報などの資料としても活用されています。
実際、筆者である私も何度か『aff(あふ)』の情報を元に、食材に関するコンテンツの企画・制作を行った経験があります(参照資料元として、許可取りしています)。
今までで一番人気が高かったのは「食品ロス削減」がテーマの「2020年10月号」。「内容がわかりやすい」という声も多く、年間トップの閲覧数とのこと(2024年度)。2位記事のアクセス数の2倍というから驚きです。この記事の公開から時間が経っても、継続してアクセスが伸びているとのことです。
『aff(あふ)』2020年10月号「特集:#残さずいただきます」
また、「2023年10月号」で『減らそう「食品ロス」』、「2025年10月号」でも「食品ロス削減」の最前線の現状を特集。いつも好評の企画です。
大木さんは、「食品ロス削減特集の他では、2026年1月号も興味深い内容となっていてオススメです。お楽しみに!」とのこと。
2026年1月号は、2026年1月7日(水)に初週分を公開、以降は毎週水曜日に更新予定です。aff(あふ)最新号:農林水産省 からご覧いただけます。
松本さんのおすすめページは、暮らしに彩りを与えてくれる花をもっと楽しむために、役立つ豆知識をお届けする連載企画「今日から使える 花知識」と、四季折々に行われる日本の年中行事に関連する「食」を紹介する連載企画「日本の年中行事と食」の2企画。2027年に開催される「2027年 国際園芸博覧会」に向けた「花」への関心醸成も意識した記事になっています。
他にもよく読まれている記事は、「和菓子の歴史」や「トマトまるごとまるわかり」、「おいしいきのこ図鑑」といったコンテンツ。
松本さんは、より多くの人に読まれるよう、やわらかいテーマや生活に密着した企画を増やしたいそうです。
また、『aff(あふ)』という農林水産省が発信する媒体で「社会情勢やトレンドもちゃんと踏まえたうえで、発信するべきではないか」と考えているとのこと。
「その発信の手法も変えていかないといけない」と視野を広く持っています。
2024年からは、公式Instagram「@aff_maffjapan」もスタートしました。弦本さんは、「今後もSNSを活用して正しく発信していきたい」とのことでした。
『aff(あふ)』には、消費者として興味津々の特集テーマがいっぱいです。
食材情報から、生産者に向けたお堅めの特集まで様々ありますが、個人的に気になる特集名だけ抜粋して並べてみました。
『aff(あふ)』は図鑑的な魅力もあって、読者としては集める楽しさもあるのです。
世の中の流れやトレンドを冷静に取り上げつつも、消費者・生産者さんとの距離感や温度感も大切にしています。
そういった情報をシンプルに図やグラフ、写真やイラストを使って、わかりやすく伝えてくれるコンテンツ。そのシンプルさに品格を感じます。
日本国内での「食」に関する課題は少なくないと思いますが、一方で栄養や食への関心が比較的高い国だと思います。お弁当の文化や、家庭の味など、私たちの暮らしの中で受け継がれているものもあります。これは給食を含めた「食育」の成果が現れているのではないかと思います。
コンテンツマーケティングの基本的な理念として、「発信者が伝えたいこと」と「読者が受け取りたいもの」をすり合わせて「段階的・継続的な良質な関係性を構築する」というものがあります。
『aff(あふ)』は官公庁として真正面にこれに取り組んでいる類稀な例です。
インタビューを通じて感じたのは、生産者と消費者をつなげ、正しい食に関する知識や現状をわかりやすく伝えたいという信念です。こうした揺るがない信念があるからこそ、官公庁による一方的な情報提供ではなく、私たち消費者も含めた「食の現場」の目線を取り入れた、「オウンドコンテンツ(=独自性のあり他には真似できないコンテンツ)」が生み出されているのだと感じます。
また、エンタメ性を追求し安易にウケを狙うのではなく、真正面から「日本の食」に向かい合う姿勢も好感度が高く、本当に情報を必要としている方々に届くメディアであるとともに、「さすが農水省!」と思わせるような、独自性の強い唯一無二のメディアになっています。
「日本の食文化・食生活の未来」を伝えていく『aff(あふ)』というオウンドメディアに、これからも大いに期待しています。
執筆:魚住 陽向
編集:Content Marketing Academy 村上 健太