村上健太
コンテンツマーケティングアカデミー、チーフストラテジスト。
企業のコンテンツ戦略立案に携わり、最新のAI技術動向をウォッチしている。
髙山はるみ
コンテンツマーケティング、リサーチャー。
長年企業ウェブサイトの制作に携わり、検索技術の変化を現場で実感している。
今井静香
コンテンツマーケティング、リサーチャー。
生成AIの活用に関心が高く、新しい情報検索の可能性を探求中。
村上:少し前にアメリカで話題になった面白い調査があります。皆さん、Google検索でAIオーバービュー(※検索結果の要約機能)って見たことありますか? Google検索結果の最上部にAI生成による要約を表示する機能です。あの要約の中に情報元となるリンクが含まれてるんですけど、実際にクリックする人がどのくらいいるかご存じですか?
今井:うーん、どのくらいでしょう?
村上:アメリカの Pew Research Center (※大手調査会社)の最新調査によると、なんとわずか1%でした。
今井:えー、そんなに少ないんですね。
高山:1%って、ほとんど誰もクリックしてないってことじゃないですか。
村上:その通りです。さらに、AIオーバービューがある場合とない場合で比較すると、従来の検索結果をクリックする人の割合が15%から8%へと、ほぼ半減しています。また、要約を見て検索を終了する人の割合は26%で、要約がない時の16%と比べて大幅に増加しました。ちなみに調査時点では、5件に1件の検索でAI要約が表示されていたそうです。
引用: Pew Research Center
今井:私の実感とも合致してます。AIオーバービューがあれば、それで満足してクリックしないことが多いです。最近、長い文章を読むのに拒否反応を示すようになってきました。もう無理って感じで。
高山:私も同じです。要約で答えが出れば、それ以上調べることは少なくなりました。でも、商品を購入する時の口コミ調べなんかでは、まだ従来の検索方法も使いますけどね。生成AIはまだ口コミ集めが下手だなって思う時があるので。
村上:従来は「この中に答えがあるかも」というページを探す検索でしたが、今は直接答えが提示される。人々はその答えを信じるか信じないかの判断をするだけになってきています。
村上:先ほどのAIオーバービューは従来の検索結果画面に自動的に表示されるので、自然に使えるものですよね。一方で、ChatGTPやGeminiなどのチャット型AIを、検索などで日常的に使っている人は周りに多いですか?
高山:私はかなりポジティブに考えている方なんですけど、周りの人はほとんど使ってないですね。おすすめはするんですけど、なかなか使ってもらえません。
今井:確かにそうですね。使い始めるとチャットのやり取りの面白さに気づいてもらえるんですけど、最初の一歩が難しいのかもしれません。
村上:なるほど。実はこの辺りにも調査データがあるんです。AI専門家と一般市民で「生成AIが今後20年でアメリカにポジティブな影響を与えるか」という質問をしたところ、AI専門家の56%が「はい」と答えたのに対し、一般市民はわずか17%でした。
高山:私はかなりポジティブに考えている方なので、一般の人が17%しかないことに驚きました。
村上:これは日本でも同様の傾向があるかもしれませんね。
高山:私、アメリカ人はもっと生成AI好きだと思ってました。新しいもの大好きなイメージがあったので。今井:確かに意外ですね。でも考えてみると、使ってない人の方が圧倒的に多いってことですよね。
村上:そうなんです。日本でも企業によっては生成AIの使用を禁止してるところがありますからね。情報漏洩のリスクを懸念してのことでしょうが、結果的に生成AI全体に対してネガティブなイメージを持ってしまう人も多そうです。格差がどんどん広がっていく感じがしますね。
引用: Pew Research Center
村上:別の調査( Nielsen Norman Group )では、多くのユーザーがまだGoogleをデフォルトで使用しており、従来の検索習慣が根強いという結果も出ています。AIオーバービューは簡単な確認には有効だが、詳しい調べ物は従来通り検索結果からWEBサイトを見る。つまり、変化はもっとゆっくりと進行していて、当面は従来の検索とAI検索の使い分けが主流になると予想しています。
https://www.nngroup.com/articles/ai-changing-search-behaviors/
今井:確かに段階的な変化ですね。私は検索はほぼChatGPTしか使わなくなりましたが、まだ少数派なのかもしれません。
村上:今後の検索行動の変化を段階別に整理するとこんな感じでしょうか。まず現在は従来検索がメインで、AIオーバービューのようなAIによる要約は補完的。次の段階ではChatGPTやGoogleの「AIモード」のようなチャット型のAI検索がメインになって自分でWEBページを見る必要がなく、いきなり答えが出てくる「答えエンジン化」が進む。最終段階では旅行の下調べ⇒予約や、商品比較検討⇒購入まで、タスクを丸ごと委託するようになる。
高山:最終段階の「丸ごと委託」は魅力的ですね。スマホに秘書のようなAIエージェントがいて、「あれ買っておいて」「予約メール見て」とかができるようになったらいいなと思います。Perplexity(パープレキシティ ※AI検索サービス)で商品のことを尋ねたりするんですけど、購入まではやってくれないんですよね。それができるようになったら、多分いろいろ買っちゃうんじゃないかな。
今井:でも予約まで任せるのはちょっと怖いです。日程を間違えられたら大変ですし。細かいところまでやってくれるのかって感じですね。
村上:確かに信頼性の問題はありますね。でも楽には勝てないですよ。これらの変化は、マーケティングにとって大きな意味を持ちます。人々がウェブサイトを訪問しなくなり、AIとの会話の中で商品を購入するようになると、従来のウェブサイト制作やSEOの考え方も変える必要があるかもしれません。
高山:確かに、要約に表示されるようにしなければいけませんが、リンクをクリックしないならSEOの意味も変わってきますね。
今井:格差の拡大も気になります。AI検索に慣れ親しんでいる人と、そうでない人の情報収集能力の差がどんどん開いていく可能性がありますね。
今回の議論では、AI検索技術の進化が私たちの情報行動やマーケティング戦略に与える影響について、現場の実感と最新データを交えて話し合いました。技術の進歩は急速ですが、人々の行動変化は段階的に進むかもしれません。マーケティング担当者としては、この変化の速度を見極めながら、適切なタイミングで戦略を調整していくことが重要になりそうです。
執筆・編集:Content Marketing Academy